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【小春日和】


「いい天気だね」
 午後のやわらかい光を全身で味わいながら、幸村は幸せそうにリビングのソファでくつろいでいる。
 ふたりがふたりでこの家で暮らしはじめて2週間。
「……今度は何を買うつもりだ」
 幸村のためのミルクティと自分用のブラックコーヒーを運びながら、真田は幸村が膝の上で広げている雑誌をちらりと見た。
『緑のある我が家 11月号』
 表紙にはそう書いてある。
 真田の差し出したミルクティを受け取って、幸村はさっそく一口いただく。温度、ミルクと砂糖の量、全てにおいて申し分ない。
 熱すぎても甘過ぎても文句を言う人ではないけれど、こだわりや好みはあって、それに叶ったものを差し出せば何も言わなくても極上の微笑みが返ってくる事を真田は知っていた。
 自分で自分がお茶の入れ方がうまいことを初めて知った。それから、料理も、他の家事も今までやったことはないはずなのに、とても器用にこなせることも。
 引っ越し休暇も終わり、いつも通り仕事に戻った真田が、幸村と過ごすはじめての休日。
 病院のように規則正しい時間に縛られない生活にようやく慣れてきた幸村を眠りたいだけ寝かせてやり、昼前に起きだしてきた彼はそのままリビングのソファでまたストールをかぶったまま横になっている。
「真田、ホントに家具を選ぶセンスあるよ」
 あまり深く考えず、ただ使いやすそうだからという理由で選んだソファだったが、リビングでの幸村の定位置はいつもそこだった。曰く、座っていても横になっても居心地がいいと。
 さて、真田といえば幸村の眠っている間に(こちらはいつまでたっても早起きの習慣が抜けないらしい。もっともこの違いの原因は昨晩にあるわけだが……)掃除を済ませ、洗濯を済ませ、やっと起きてはみたもののソファに移動しただけでやっぱり横になった幸村にソファを占拠されてしまったので、
 ……床に座って途方に暮れている。
 2週間前、この家には何もなかった。本当に必要最低限のものしか置いてなかった。包丁はあったがまな板がないといった感じで、生活必需品さえ揃っていなかったのだ。
 今。
 玄関にはドライフラワーをガラスケースにあしらった額縁が飾られ、トイレには芳香剤も兼ねた置き物が並び、オーディオ棚には昔の写真が入った写真立てが幾つか置かれている。
 茶碗とマグカップしか入っていなかった食器棚には、タンブラーや客用のティーセットが並び、キッチンにはコーヒーメーカーが増えた。
 こうして、生活道具が揃うにつれ、真田は「二人でここで暮らしている」ことを実感する。それはとても嬉しく、もしかしたら明日には崩れてしまうかもしれない時間を大切に大切に包み込むように幸せをかみしめていた。


 が。

 真田の花嫁は、病院でできなかった趣味に心奪われていた。
 ベッドの横に造った本棚にはすでに、実家から持って来たものも含めてガーデニング関係の本がずらりと並んでいた。横になっていても眠れない時は、延々とそれを眺めている。
 この寒い中、外に何時間もいたらどうなるかわかったものではない。
 先日、約束していた物を買いに出掛けた時、花屋の店先で『あれが欲しいな、これも植えたい』と言い出したのがはじまりだった。寒空の下でそんな作業などとんでもないと幸村を説得して、冬の庭づくりは諦めてもらった。
 代わりに部屋の中に置ける大きなドラセナを買った。幸福の木とも呼ばれている。
 それを手始めに、気付けば真田の家のリビングは、徐々に緑に侵食されつつあった。
 真田とて花や緑が嫌いな訳ではない。
 だが、植木鉢に水やりをしながらにこにこと彼等(?)に話しかける幸村を見るたびに、何とも言えない気分になるのだ。もしかしたらこれをヤキモチというのかもしれない。
 でもひととおり家中の緑を見てまわって、御満悦の幸村は、最後に真田のところに戻ってくる。
 そして言うのだ。
「薬の匂いがしないっていいね。ここは自然の匂いがする」
 だから真田は何も言えなくなる。
 そして会社帰りにゴールドクレストを抱えてきてしまったりするのだ。


「早く春にならないかなあ」
 幸村は窓の外を見る。
 ふたりだけのあたたかな午後。誰にも邪魔されない、しあわせな時間。
「ああ。暖かくなったら、二人でどこかへ……」
「そしたら、庭をもっと明るくしたいな。せっかくあんなに広いのだから」
 やはり、目下ご趣味のガーデニングにすっかり夢中のようで。






ふたりで暮らす、しあわせな日々。




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