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【14th day】


 好きな人ができました。
 好きな人に好きと言ってもらいました。
 はじめての----そしてきっと最後のバレンタインです。
 病院の売店で、チョコレートを買いました。
 前に貰ったお見舞いのお菓子の包装紙で、ちょっと不格好なラッピングをしました。
 毎日来る、と言っていた彼はきっと2月14日も面会に来てくれると思ったからです。
 男同士でばかばかしい、と笑われるかもしれません。
 僕も去年まではチョコレートはもらうもので、あげるものではなかったからです。
 それでも。
 ありふれた既製品に、折り跡の付いた包装紙でそれを準備している時
 ----僕は幸せでした。
 なんでもよかったんです。
 ただ、「好きな人と何かする為の特別な日」を楽しむことができたなら。
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 きらびやかな場所は苦手だ。
 真田は途方に暮れていた。
 学校の最寄駅の前にあるショッピングセンター。その1階特設広場の中をもう3周も巡り歩いている。
 お揃いのポップタグを胸ポケットに飾った店員たちがフェア最終日の今日、通りかかる人々に「いかがですか?いかがですか?」と必死にアピールをする。
 店員の声ばかりが耳に入ってきて、肝心の買い物が出来ないではないか。
 ためいきをついて、真田はもう一度売り場へ足を戻した。

 ホワイトデーフェア

 幸村から、2月14日にチョコレートを貰った。
「本当に、こんなものしかないんだ。病院の売店だし」
 どこにでも売っていそうなありふれた板チョコが、見覚えのある----確か真田が前に持っていった洋菓子屋のものだ----包装紙にくるまれていた。
 綺麗にテープを剥がし、一度折り目を伸ばしたけれど、ところどころに(最初の洋菓子を包んだ時のものと、たぶんラッピングに何度か失敗した跡らしい)不自然な折り目がついていて、ちょっとだけ哀れな姿になってしまったそれを手渡したあと幸村はうつむいてしまった。
 なんというかその、真田は受け取ったチョコレートが手の中で溶けてしまうのではないかというくらい、それを握ったまま、ただ呆然と包みを見ていたので。
「……ごめん……」
 幸村がちいさな声で、そう言って、やっと真田は我に帰ったのだ。
「いや……その、……これは、そういうものだと、おもって、いいのか……?」
 もしそうなのだとしたら。
 去年の秋に、好きだと伝えた。幸村も同じ気持ちだと知った。
 はじめてのバレンタイン。
 洋菓子業界と女子供だけがはしゃいでいるものだとばかり思っていた。
 幸村が真剣に、自分の事を思ってくれていたこと、気持ちを形に表して好きだと伝えてくれたこと、それだけで真田はなにも言えなくなってしまったのだ。
 自分の体調のことさえ心もとないというのに、病院の売店の少ない種類の商品の中からチョコレートを選び、手元にあるもので必死にそれにラッピングを施して、そして、手渡してくれた。
 できるものの全てで真田に気持ちを贈ってくれた幸村に応えられるようなものを贈りたい。
 けれど、一ヶ月探したけれど、それはどこにもみつからなかった。
 コンビニにも、スーパーにも、デパートでさえ売っていない。
 考えのまとまらないまま、3月14日、日曜日。
「いかがですか?」
 もう百回くらい聞いたフレーズにうんざりしながら、余計な事は考えないようにして真田はプレゼントの並んだワゴンの間を歩いてゆく。
「とても大切な方への贈り物なんですね」
「……」
 ふと、声をかけられて、立ち止まった。
「さっきから何回も、ここを通られるので。迷っていらっしゃるのかなって」
「……」
「贈り物は気持ちですからね」
 にこりと笑う販売員の彼女の手に、透明なフィルムに包まれた篭があった。
「……みせてもらってもいいですか?」
「どうぞ」
 取っ手に水色のリボンが施されている。篭の中身はちいさなうさぎのぬいぐるみとキャンディが少々。
 ホワイトデーのお返しといえばクッキーやキャンディがメインだが、どちらかというとこれはお菓子の方がおまけのようなものだった。
真田は、ちょっとだけ考えて、そして販売員に篭を渡した。
「……これをください」
 病院には入院のルールがある。
 そのなかの一つに「枕やぬいぐるみの持ち込み禁止」があった。
 小児病棟で、「くまさんを連れてきて〜!」と泣きじゃくる子供を見たことがある。
 以前入院した親戚か誰かが枕が変わって眠れない、と愚痴をこぼしているのを聞いたことがある。
 衛生面から雑菌の温床になるそういったものは禁止されているのだ。
 今の幸村の容態ならばなおさらである。
 けれど。
 片手に乗るようなちいさなマスコットを、サイドテーブルに置くくらいなら、見のがしてもらえないだろうか。
 愛嬌のある篭の中のそれが、小さな部屋でたったひとりの幸村の
 ----孤独の片隅を埋めてくれるかもしれない。
 片手にプレゼントを持ったまま、真田はいつもの店でいつものようにケーキを買いいつものように病院へ向かった。







バレンタインデーとホワイトデーに日記で書いたネタを
秋に再編集してtextページにうpしたものを
春に新しいサイトでアップ。
相変わらず幸村は病人です。
(20040214/20040314)




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