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【LAST LOVE SONG】 彼は、真夏の日射しの下を歩いていた。 どこにでもいるありふれた少年のようで、どこにでもいるわけはない、中学テニス界で誰よりも強い男。 その鍛えられた身体と精神に相応しい、中学生離れした風体に似つかわしくないファンシーな絵柄の小箱を片手に下げていつものようにいつもの道を歩く。 辺りには蝉の声。 夏が、始まろうとしている。 約束の、夏が。 自動ドアの中は、ほどよく涼しい温度に保たれている。 帽子を脱いでハンカチで額と首の汗を拭うと、室内なのにまた帽子を被り直して、エレベーターではなく階段で上の階へと進んでいった。 いつものようにいつのも部屋へ向かう。 開け放たれたそのドアの前、ナースステーションの中から、彼は呼び止められた。 「真田くん」 声をかけたのは、彼も見知ったここの----病院のスタッフの女性だった。 「こんにちは」 「こんにちは。真田くん。暑い中いつもありがとうね。でも、ごめんなさい。今日はね、面会できないの……」 「何か、あったんですか?」 真田の顔色が変わった。 「あ、何でもないのよ。昨日の夜急に熱を出して、『手術』前だから大事をとって、安静にしてもらっているだけだから」 「……そうですか」 表情は曇ったままだ。 「大丈夫だから、また来てあげてね」 「わかりました。これ……皆さんでどうぞ」 見舞いの手土産のつもりだった洋菓子の箱を彼女に手渡すと、真田はそのままドアの向こう、うっすらとカーテン越しに横たわっている彼のシルエットを確認してその場を去った。 それが、真田の知っている『幸村精市』の最後の姿だった。 轟音。 「今日はやけに飛行機の数が多いな」 柳が空を見上げた。 放課後、部活の休憩時間。 「こんなトコを飛行機が飛ぶなんて、珍しいスね」 と、汗を拭いながら、赤也。 そういえば、この街の上は飛行空路にはなっていない筈だ。 見なれない飛行機が、数機、頭上を通ってゆく。 「何か、おかしくないで……すか」 誰かがそう言った時。 通りすがりに、それらが何かを捲いて去っていった。 「隠れろ!」 反射的に真田は叫んだ。 「建物は危ない!木の下だ。逃げろ!」 ぱらぱら、と振り注ぐ、なにか。 それらは校舎に直撃し、閃光を放って爆発した。 「なんなんだよ!一体!!」 ジャッカルが叫ぶ。 「いいから身を守れ!伏せろ」 訳もわからないまま、ただ本能的に真田は叫んだ。 轟音、そして衝撃と振動。 木造の旧校舎が燃え上がるのが見えた。 何が起きたのかも理解できないまま、降り注ぐ砲弾に為す術もなくグラウンドにいた生徒たちが身を竦めていたその時。 真田は、見た。 一閃のひかりが、空を横切るのを。 それは学校の上空をひらりと舞うと、あっという間に ----上空を旋回していた飛行機を幾数もの砲弾と共に呑み込んだ。 「……な、何」 真田は立ち上がる。 「どこ行くんスか! 副部長!」 走った。 炎に阻まれていない道を昇り、校舎の屋上へ。 そこに在るのは、ひかり。 「……真田?」 真田の名前を呼ぶ、ひかり。 「……ゆ……」 ゆきむら、と呼ぶには、 あまりにも違いすぎた。 けれど確かに、背に鋼鉄の翼を持ったそのひとは、先日まであの冷たい部屋にいた。 真田弦一郎が----恋していた人だった。 「真田」 恋していたそのひとは、真田の名前を呼ぶ。 彼と……あの日までと変わらぬ声で、違う姿で。 「真田、やっと会えた」 彼は微笑する。 「幸村、なのか?」 真田はやっと、その名前を口にすることができた。 「俺がわからないか?」 「……いや、幸村だ……」 彼が、いや、それが幸村だと云うのなら。 その背にある無機質の翼は、『なに』だろう。 「おまえに会いたくて、随分わがままを云った」 「……」 「おかげで、こんななりになってしまった」 「……」 「でも、ようやく会えた。今度こそちゃんと言える」 「……」 「俺は、真田が……」 崩れおちたその人を支えようと、咄嗟に真田は手を延ばした。 抱きとめた身体は、思っていたより細く、重く、そして、冷たかった。 「幸村……」 「さな、だ……が……」 そこで、ぴたりと幸村は動かなくなった。 「幸村!」 冷たい。その身体から鼓動は感じられない。呼吸もしていない。 「ゆき……」 「居たぞ!」 動かなくなった幸村と、動けない真田の背後に、校舎を駆け上がってきた数人の足音が響いた。 幸村を抱きとめたままの真田が振り向いた時に観たものは、迷彩色の見なれぬ服を着た、大人の男達だった。 続きはまだありません。 こういうパラレルちっくなのも書いてみたかったんだなあと。これかいたのいつだ? ファイルの更新情報は20040301でした。 (20040301) back |