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【PENGUIN】 「誰も許してくれないなら、一緒に逃げよう」 「……うん……」 真田の声も俺の声も、半分涙声だった。 パジャマばかりの手荷物の中からなんとか外出できる普段着をみつけて、手早く着替える。 真田の大きなコートと帽子を借りて、マフラーをぐるぐる巻きにして、ナースステーションに人が少ないのを見計らってあわててそこを通り抜けた。 何ヶ月ぶりかの外の世界。 「これ、ありがとう真田」 無事に外に出られたので、コートを返そうとした俺を、真田の手が止めた。 「商店街の方へ出たら上着を買おう。それまでお前が着ていろ」 真田はマフラーだけ受け取って、自分の首に巻き付けた。 俺がここに入院したのは初夏で、そのとき着ていた服しか持っていなかった。 カーディガンを羽織ってどうにか体裁だけは整えたが、確かに少し寂しいなりだ。 「俺も買う。着替えていこう。手持ちの服だとすぐにみつかってしまう」 病院前からバスに乗り、駅前で降りる。 真田とふたりでそのままカジュアル服の店に入った。 「着られればいいんだ、適当でいいんだ」 そう公言して一件無頓着に見える真田だが、意外にも服のセンスは悪くない。 2枚のコートを「どっちがいい?」と見せると 「こちらの方が落ち着いていてで無難だが」 「うん」 「幸村にはこっちのほうが似合うな。明るい感じになる」 ちょっと背伸びしたデザインの明るい色を選んできた。 「幸村、水色が好きだろう」 「うん」 二人でそれぞれ買うものを決めてレジに並ぶ。 「お会計はご一緒でよろしいでしょうか?」 「一緒でお願いします。すぐ使いたいのでタグは全部外してください」 「え……」 財布を取り出しかけていた俺のことはまったく気にもとめず、そのまま「これとこれは別の袋でお願いします」などと店員と会話をしている。 「他になにか必要なものはないか?」 「……じゃあ、帽子。真田の黒のキャップはトレードマークみたいなもんだからすぐみつかっちゃうし、俺もなにか被っていたほうがいいんじゃないか」 「そうだな」 そしてまた、レジ横の小物売り場から、さっき選んだばかりのコートにあつらえたような帽子を選んできて「これもお願いします」と追加するのだ。 「会計……」 「病院にいたのなら、そんなに幸村は持ち合わせておらんだろう」 「ごめん、素直に甘えさせてもらうよ。いつか返すから」 「……いつか、だな」 駅前のデパートの綺麗で広いトイレで二人着替えた。 大きな鏡に写った自分は、真田が選んでくれた服に大満足だったし、あとから出てきた真田は、いままで見てきた私服の真田よりずっとかっこよかった。 「中学生には見えないけど」 「それくらい作っておいたほうが何かと便利だろう」 「前髪、さっきの帽子の癖が残ってるよ」 「ん、……ああ」 水道の水でどうにか前髪の癖を直した。 それから備え付けのゴミ箱に今まで着ていたお世辞にも冬物と言えない服やなにやらを放り込んで二人で店を出た。真田は、大事に大事にしていた黒の帽子まで、全部捨ててしまった。 「真田ってお金持ちなんだね」 「……そういう訳ではない。ただ、お年玉や小遣いを使う用途がなくて、なんとなく貯金していただけだ」 「貯金なら俺もあった。でもキャッシュカードなんかは全部家に置いてきてしまったんだ」 「いいではないか。これから先、必要なものはないだろう?」 「うん」 真田のポケットには、財布と携帯電話。 俺のポケットには、がさばる紙袋が1つ。 たったこれだけの荷物を持って、俺達はこれから旅に出る。 もうほかに、欲しいものなんて何もないから。 切符売り場で、二人でいちばん遠くまでの切符を買った。 ここからどの路線を乗り継いでどこへ行くのかはまだ決めていなかったけれど。 「具合は、悪くないか? 寒い中でこんな長時間、それもかなり歩いた」 「真田が思ってるほどやわじゃないよ」 次の電車を待つ駅のホームで、並んでベンチに腰掛ける。 ぴったりくっついた二人の間で、洋服に埋もれた下で二人で手を繋いでいることはたぶん、誰も知らない。 いつもの発作の予兆みたいなものを感じて、俺は慌ててポケットの薬袋を漁った。 気付いた真田が自販機で買ってきたミネラルウオーターで、薬を飲んだ。 「大丈夫か?」 「これくらい、なんともない」 早く、電車が来ればいい。 あの白い箱から俺を連れ出してくれた、誰よりも大好きな真田と俺はこれから、遠くへいくのだから。 もう戻ることのない旅路を。 1行目の台詞は、マッキーの「PENGUIN」です。 歌全部知ってる人なら、オチまでわかるのですが、 そのラストはある意味アンハッピーエンドなので、 こういう「未来は読んだ方の想像の中に存在します」 という感じの形で終わらせました。 (20040213/20090301rewrite) back |